冷たいものがしみたり、食事の時に少し痛みがあったりする虫歯をそのまま放置すると、やがて神経の部屋(根管)にまで達します。そうすると夜も眠れないほどの痛みを感じ、熱いものでもしみるようになります。しかしこの状態を耐え続けると、ある時から痛みを感じなくなります。虫歯が治ったと思ってしまうかもしれませんが、それは大きな間違いです。今回は痛みを感じなくなった虫歯を放置することがなぜ危険なのか、どのような治療法があるのか、わかりやすく解説していきます。
虫歯の痛みがなくなる理由
どうして今まで痛かった虫歯が、ある時から痛みを感じなくなるのでしょうか?
虫歯の進行状態は5つの段階があります。
C0(初期の虫歯)
C0は、虫歯の初期段階です。歯の表層組織であるエナメル質が、虫歯菌が作り出す酸によって少し溶けた状態です。白っぽかったり、薄い茶色だったりします。この時点では自覚症状はありません。
C1(エナメル質の虫歯)
虫歯がもう少し進行すると、エナメル質を溶かしていきます。この段階でも痛みを感じることはほとんどないでしょう。
C2(象牙質の虫歯)
虫歯がさらに進行すると、エナメル質の内側にある象牙質に達します。ここまでくると冷たいものや、甘いもの、また食べ物を噛んだときにしみたり、痛みを感じたりするようになります。
C3(歯髄に達した虫歯)
虫歯がさらに進行すると、歯の神経とも呼ばれる“歯髄”が虫歯菌に感染します。この段階まで来ると、何もしていなくてもズキズキ痛みを感じます。特に夜、お風呂上りなどは体が温まるため、ズキズキとした鋭い痛みを感じ、眠ることさえできなくなるかもしれません。痛み止めを飲んでもすぐに切れてしまうでしょう。
C4(歯根に達した虫歯)
歯髄にまで達した虫歯は、やがて歯の根である歯根に達します。ここまで虫歯が進行すると、もう痛みを感じることはありません。
C3の状態を放置していると、神経が死んでしまいます。神経が死んでしまえばもはや痛みを感じることはなくなります。そのため「虫歯が治った」と思ってしまうかもしれません。しかし虫歯が自然治癒することはありません。痛みがなくなってもそのまま進行していきます。
痛みがなくなった虫歯を放置すると
痛みがなくなったからと言って、虫歯を放置することはとても危険です。
次のような症状があらわれる可能性があります。
口臭が強くなる
虫歯を放置していると、菌がどんどんと繁殖していきます。そのため口臭が強くなります。
根の先に膿がたまる
虫歯菌が歯根にまで達すると、根の先に膿の袋を作るようになります。これを根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)といいます。膿の袋が大きくなってくると、顔が腫れたり、痛みがでたりすることがあります。
上顎洞炎になる
上の奥歯は上顎洞と呼ばれる鼻の横にある空洞との距離が近いです。そのため歯の根の先に膿がたまると、それが上顎洞にまでおよび、炎症を起こして膿がたまることがあります。
骨髄炎になる
虫歯菌があごの骨にまで達してそこで炎症を起こすと、あごの骨が腐ってきます。強い痛み、発熱、吐き気などの症状が出ます。
心筋梗塞・脳梗塞になる
虫歯菌は全身をめぐります。場合によってはそれが動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や心筋梗塞を招くこともあります。
痛みがなくなった虫歯の治療法
治療法は主に3つあります。
根管治療
神経が入っていた部屋(根管)を何度も消毒して、薬を詰め、上にかぶせ物を作っていきます。しかし痛みを感じなくなるほど大きな虫歯ができた場合、根管治療をしても予後が悪いことがあります。
抜歯
歯の崩壊が激しく、歯根しか残っていない場合、残念ながら抜歯になります。その部分を補うために、ブリッジや、インプラント、入れ歯を作る治療へと移行します。
外科治療
骨髄炎になった場合は、外科的な処置が必要になります。抗生物質を投与し、炎症が起きている骨や周りの筋肉を外科的に取り除きます。入院が必要になるでしょう。
このように虫歯を放置していると、かえって大掛かりな治療が必要になります。
まとめ
虫歯の痛みを我慢し続けると、ある時点から痛みを感じなくなるかもしれませんが、それは“虫歯が治った”わけではありません。風邪とは違い、虫歯は自然に治ることはありません。そのまま放置していると、後から強い痛みが出たり、大掛かりな治療が必要になったり、歯を失ったり、最悪の場合は命を脅かす病気になる可能性もあります。決して虫歯を甘く見てはいけません。痛みが強いときは、市販の痛み止めを飲んだり、痛い部分に濡れたタオルを当てて冷やしたりすることもできます。そして、たとえ仕事が忙しくても、できるだけ早めに歯科医院で治療を受けましょう。また、何も症状がなくても、歯科医院で定期検診・歯のクリーニングを受ける習慣をつけましょう。