高齢者の口腔ケアについて

加齢により起こりがちな口腔環境の変化

年齢を重ねるうちに、身体には様々な変化が生じます。口腔環境についても例外ではありません。
加齢に伴う口腔環境の変化には以下のようなものがあります。

ドライマウス

加齢により唾液の分泌量は減る傾向があり、口の中が渇くことが多くなりがちです。
口腔内は唾液によって中性に保たれていますが、乾燥が進むことによって酸性に偏るため、むし歯や歯周病の原因菌が繁殖しやすくなります。
また、口腔内が乾燥すると食べ物が飲み込みにくくなって、食事の際にむせたり、誤嚥が起こりやすくなったりもします。

歯周病の進行

歯周病は若い世代にも起こる病気ですが、時間をかけて少しずつ進行するので、高齢者は歯周病が進行している場合が多いです。
歯周病が進行すると痛みや出血、口臭などの不快感の他、歯がグラグラして噛みにくくなるため固いものが食べられないなどの問題が起こってきます。

歯の摩耗

入念に歯みがきを続けて、自分の歯が残っている場合でも、歯の表面のエナメル質は少しずつ摩耗して薄くなっていく傾向があります。
エナメル質が摩耗すると、神経への刺激が伝わりやすくなり、熱いものや冷たいものが染みる・痛いと感じるようになる、歯と歯の隙間が広くなって食べ物が挟まりやすくなるなどの問題が起こりやすくなります。

自分の歯が減る事による噛み合わせの変化

高齢になるにしたがって、むし歯や歯周病、その他様々な理由で歯を失う機会が増えます。
自分の歯が減ってくると、食事の際に噛みやすい場所も変わり、噛み方が変わってきますので、残った他の歯や、顎の筋肉などにも影響が出てくる場合が多いです。
また、歯が抜けた部分をそのままにしておくと、残った歯が移動して歯並びが変化する場合もあるので、嚙み合わせが変わってくることもよくあります。

口腔環境の悪化が引き起こす問題とは

噛めない食品が増えることによる消化不良や栄養摂取の問題

加齢によって口腔環境が悪化してくると、痛みや不快感を生じてしまうため、食べられない・進んで食べたいと思えない食品が増えてきます。
若い頃は少々硬いものでもよく噛んで食べられていたのが、噛みにくくなってくるとあまり噛まずに飲み込んでしまうので、上手く消化できないと言った問題も起こりがちです。
食べにくいものを避けていると、徐々に食べられるものが限定されていきます。
柔らかいもの、飲み込みやすいものなど、食べやすいものばかりを摂るようになると、栄養が偏ってしまう場合もあります。

食べる楽しみが減る事による精神的な影響

口腔環境が健全な若い頃には好物だったものが加齢に伴い食べられなくなると、ご自身の老化を過剰に実感してしまい、気分が落ち込んでしまう場合があります。
食欲が落ちたり、歯みがきを入念に行う気力が衰えたりすると、ますます口腔環境が悪化する、負のスパイラルに入ってしまう場合もあります。

誤嚥性肺炎のリスク

食べ物や飲み物が気管に入ってしまう、入りそうになってむせてしまうことは、年齢に関係なく起こります。
高齢になると、口腔周辺の筋力の衰えや、口腔内の乾燥によって、誤嚥が起きやすくなります。
さらに、口腔内にむし歯菌や歯周病菌が繁殖している状態で誤嚥が起こると、菌も一緒に肺に入ってしまうので、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
誤嚥性肺炎は、高齢者を中心に年間4万人以上が亡くなる大変危険な病気です。

高齢者が行うべき口腔ケアとは

あいうべ体操などを取り入れた口腔周辺の筋肉のトレーニング

口や頬、顎やのどなど、口腔周辺の筋肉を意識的に動かしてトレーニングすることで、口を開けたり閉じたりする力、噛む力や吸う力、飲み込む力や舌を動かす力などを鍛えられます。
口腔周辺の筋肉を鍛える方法としては「あいうべ体操」がよく知られています。
その他、唾液腺を刺激して、唾液の分泌量を増やす運動などもありますので、積極的に取り入れて口腔周辺の衰えを予防しましょう。

指や柔らかいブラシを使用した歯ぐきのマッサージ

清潔な指や、歯垢(プラーク)除去用の歯ブラシよりもさらに柔らかいブラシなどを使って、歯ぐきや、歯ぐきと歯の境目をマッサージする方法があります。
むし歯や歯周病を改善させる、治療的な効果はあまり期待できないとされていますが、マッサージで歯ぐきの血行を促進することで、代謝の促進や、栄養素を行きわたらせるなどの効果が期待できます。
また、歯ぐきへの刺激が唾液腺の刺激にもつながり、唾液の分泌量を増やす効果も期待できますし、単純に気持ちが良い、リラクゼーション的な効果もあります。

デンタルフロスやマウスウォッシュなどを取り入れた入念なセルフケア

入念な歯みがきや、デンタルフロス・マウスウォッシュなどを使用した口腔内のセルフケアを継続することは、年齢に関係なくとても大切です。
高齢者にとって、普段からできるだけ口腔内を清潔に保って、プラークを増やさないようにすることは、誤嚥性肺炎のリスクを考慮すると、とくに重要です。
誤嚥を完全に防ぐことはかなり難しいので、誤嚥が起こっても肺炎に進行しにくい口腔環境を意識して、毎日のケアを継続しましょう。

定期的なプロケア

どれだけ丁寧に歯みがきを行っていても、セルフケアだけで完全にプラークを落としきる事はかなり難しいです。
落としきれなかったプラークは時間が経つと歯石になり、セルフケアで除去することはほぼ不可能になります。
毎日のセルフケアに加えて、定期的に歯科医師や歯科衛生士によるプロケアを受けて、歯石を除去することや、みがき残しが起きやすい箇所を把握して、歯みがきの精度を上げていくことがとても重要です。

さいごに

加齢に伴い、私たちの身体には様々な変化が起こります。
高齢だからしょうがない…と、老化を受け入れる姿勢や気持ちも、ある程度は必要かもしれませんが、加齢に抗い、あきらめずに向き合い続けることで、老化を遅らせるだけでなく、改善出来る部分もたくさんあります。
とくに、口腔環境の衰えは、食事による栄養摂取に直結する部分でもありますので、できる限り入念なケアを継続し、健康寿命を延ばすために取り組んでいきましょう。
ご家庭でのセルフケアだけに頼らず、定期的なプロケアを積極的に取り入れる事も重要です。