歯科医院に治療に行くと、ときどき目にするPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)という言葉。
「歯科医師や歯科衛生により、歯面や歯肉を専門的な器具や材料を用いて清掃してもらう方法」をさし、利用する人が徐々に増えています。
厚生労働省の調査によると、日本人の95%以上が毎日自分で歯を磨いています。
それなのに、どうして専門家による追加の掃除が必要なのでしょうか?
やるとやらないとでは将来の歯や歯ぐきの健康リスクに大きな差が現れるPMTCについて解説します。
世界が注目する予防歯科先進国スウェーデン
80歳になっても20本以上自分の歯を残す運動を呼びかける8020推進財団の調査によると、日本人が歯を失う理由は次のようになっています。
・歯周病 41.8%
・虫歯 32.4%
・その他 25.8%
(8020財団 永久歯の抜歯原因調査平成17年 )
http://www.8020zaidan.or.jp/pdf/jigyo/bassi.pdf
歯周病や虫歯のなりやすさは人によって異なりますが、こうした病気を未然に防ぐことが大切な自分の歯を守ることにつながります。
このような観点から病気を予防する処置が予防歯科です。
1970年代、世界でいち早く予防歯科の重要性を打ち出した国があります。
今や予防歯科の先進国と呼ばれ、PMTC発祥の地でもあるスウェーデンです。
スウェーデンの国民には虫歯や歯周病が少ないことが知られ、虫歯は日本人の半分、歯周病は4分の1程度ともいわれています。
株式会社ライオンによる70歳で何本の歯が残っているかの調査によると、日本人の平均値が16.5本だったのに対し、スウェーデンでは21本。
(ライオン調べ) http://clinica.lion.co.jp/yobou/new.htm
大きな開きがあることがわかります。
しかし、スウェーデンの虫歯や歯周病が初めから少なかったわけではありません。
1980年ごろまでは日本とさして変わらない状況でした。
1971年以降、国をあげて予防歯科の普及に取り組んだことで、次第に世界で最も歯科疾患が少ない国とまで呼ばれるに至ったのです。
一方、日本は世界有数の医療先進国といわれていますが高齢者の歯の残存本数はほかの国と比較して決して多くはなく、中高年以降急速に歯を失い始める傾向があります。
自分の歯を多く残すことは背骨の湾曲や認知症の予防にも効果があることがわかっており、健康寿命を延ばすうえで重要なポイントになっていることが指摘されています。
PMTC、どんなことをするのか
予防歯科の代表的な例であるPMTC。
歯の表面(歯面)や溝、歯と歯の間に溜まったバイオフィルムや歯石を専門の器具を使って取り除くことを主な目的としています。
バイオフィルムとは、食べ物のカスを餌に細菌が増殖してできた塊。
バイオフィルムの中では細菌が多糖類に包まれ、歯周病や虫歯の原因となる細菌が増殖しやすくなっています。
また、歯に付着したバイオフィルムは時間が経つと石灰化して歯石に変化。
歯石は歯磨きでは取り除くことができず、表面がでこぼこしているためそこを起点として新たなプラーク(歯垢)が付着しやすくなります。
このようにしてできたバイオフィルムは歯周病や虫歯の主な原因となっています。
最近の歯磨き粉の中には研磨剤が含まれているものがありますが、バイオフィルムや歯石を十分に取り除くことはできません。
歯に付着した頑固な汚れを取り去るには、歯科医師や歯科衛生士に歯面を磨いてもらう必要があるのです。
PMTCはどのように行われるのでしょうか。一般的な手順を確認しましょう。
1.歯や歯ぐきの状態を検査
目視や歯垢を赤く染める薬剤などで、磨き残しを確認します。
その上で、歯磨きの問題点の指摘・正しい歯磨きの指導を行います。
2.バイオフィルムの除去
回転ブラシやゴム製のチップなど、専用の器具を使って歯を磨いていきます。
歯の間、歯と歯ぐきの境目、奥歯の溝など、セルフケアでは磨ききることができない箇所も専用の器具で清掃・研磨を行います。
3.歯面や歯周ポケット内の洗浄
歯の表面や歯周ポケットの洗浄や殺菌を行います。
歯の再石灰化を促すフッ素剤を歯面に塗布し、虫歯に強い歯にします。
PMTC後はフッ素の浸透がよくなるため、虫歯予防の効果が高まります。
フッ素剤の塗布後1時間程度は、飲食を控えましょう。
また、お口の状態によってPMTCとは別に、歯石の除去や歯周ポケットの測定、口内の殺菌洗浄なども行います。
本来、PMTCは保険適用外の自費診療で、歯科医院によって異なりますが5000円~数万円程度の費用がかかります。
しかし、歯石除去などほかの治療行為に付随して「治療に必要不可欠」であれば保険診療内で実施することができ、数千円と費用を安く抑えることができます。
このような事情から、PMTCと歯石除去を同時に行うことがあるということを理解しておきましょう。
定期的にPMTCを行うことで歯周病や虫歯の原因菌の増殖を防ぎ、予防につながります。
歯の磨き方のクセは人によってさまざまで、磨きにくい場所、歯垢がたまりやすい場所もそれぞれ違います。
そのため、3カ月に1回や半年に1回など、人によって必要な頻度が異なります。
適切なメンテナンスの方法は、歯科医院に相談しましょう。
日本でも効果が表れ始めたPMTC
厚生労働省の調査では、フッ素塗布を受けたものがない者の割合は、昭和62年には56.2%だったのに対し、平成23年には28.0%と大幅に減少し、多くの人が歯科医院で専門的なメンテナンスを受けるようになったことがうかがえます。
このような状況を反映し、遅れていた日本の予防歯科も、徐々に改善の兆しが見え始めました。
80歳以上で20本以上の歯が残っている割合は、昭和62年にはわずか7%だったのに対し、平成23年には28.9%にまで大幅に改善。
他の年代でも軒並み改善が見られました。
歯の寿命を延ばすためには、自分で行うセルフケアはもちろんのこと、専門家(プロ)によるプロケアが非常に有効です。
自分の歯で物を噛める状態が一生維持できるように歯科医院での定期的なチェックやメンテナンスを心掛けましょう。